JSD研究発表会(6114)の 報告

 「マネジメント・プロセスの革新に向けて」

 

期日 :2006年1月14日(土)13時〜17時15分
場所 :学習院大学 南3号館104号室
主題 :「マネジメント・プロセスの革新に向けて」
主催 :システム・ダイナミックス学会日本支部(JSD)
運営担当 :JSD ビジネス・プロセス・ダイナミックス研究分科会

125名の参加がありました。右の写真は、後半
の部の集中討論の様子です。


講演者の写真をクリックすることで、 PDF形式の講演論文をご覧いただけます。
松本の講演で、シミュレーションをご覧に入れた「ビール・ゲームのサプライ・チェーン・モデル」は、講演タイトルの下のコメント行をクリックすることでダウンロードできます。 このモデルは、フリーのソフトであるPs Studio 2005 Express上で動きます。
プログラムは、左側のフレームにある「Ps Studioのダウンロード」をクリックしてダウンロードのページに入り、入手してください。


【 プログラム 】
13:00−13:25 マネジメント・プロセスの焦点:学習力とシステム
森田道也(学習院大学 経済学部)
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企業は成長を遂げることを目標としている場合、成長源泉を見つけ、それを成長の糧にする能力が経営に課された課題になる。その能力は企業の人的資源の資質に依存する。組織は人なりという格言はあてはまる。しかしながら、それがいかに理解されていないかが問題である。同じ業種や産業を見ても、企業間には格差が厳然と存在する。それが偶然事象だけで規定されるということは厳密に証明し難いが、ほぼ否定できる。企業成長をとどめるように働く、いわゆるPenrose制約(「企業成長の理論」1959年より)は人的資源の育成力について示唆しているのではないだろうか。

マネジメント力はマネジメント・プロセスの質によって左右されるということを前提にして、本講演では、組織成員の学習力を高めること、そしてそのためのシステム支援ができるようになることがマネジメント・プロセスの焦点になることを提案した 。

 

13:25−13:50 販売プロセスにおけるプライス・コントロール・マネジメン
小池昇司(リコーエレメックス株式会社 環境事業部)
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キイワード : システム・ダイナミックス、プライス・コントロール、販売プロセス、BSC、バラツキ
「商品価値を下回る安売りは不良品である」という意識を浸透させ、販売資源投入のムダを削減した販売プロセス改善事例である。セールスごと、取引ごとの値引きのバラツキ要因には、セールスの意識の差、営業プロセスの違い、顧客関心事の違い、顧客との関係度合、顧客の認知レベル差などが存在する。バラツキ要因と安売りとの因果関係モデルを描く。重要なバラツキ要因に対応する販売プロセスに対してフィードバック施策をかけることにより利益率を向上し、売価バラツキを抑制した。実際の事業運営ではSDを活用して販売プロセス改善効果をシミュレーションし、KPIの測定によるモデルの実証とチューニングをし、SDを活用したモデルベースの事業運営を実施する。


13:50−14:15 CMMレベル4以下のEVM
蓮尾克彦(特定非営利活動法人 ITコーディネータ協会)
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キイワード : システム・ダイナミックス、EVM、PERT、PMBOK、CMM、SLCP、ITSS、COCOMO、What-if、次世代型PERT、NDP
欧米では成功しているEVMであるが、マネージングの対象となるITのエンジニアリンロセスがCMMレベル4以下の日本では使えない。WBSなど古典的な技法はシリアルなプロセスには効果的であるが、顧客とコラボレーションするシステム開発では、顧客の能力や、アクティビティ間の影響で生産性が変化する。あいまいな要件のプロジェクト管理としてTOCなどを取り入れた、米国海軍の調達プロセスを参考に、CMMレベル4以下の日本のシステム開発に適用でき、ベテランPMの暗黙知を形式知化する次世代型のPERTを試行した。これにより、顧客はリスクを最小化でき、ソフト企業はCMMのレベルを高めることができる。

14:15−14:40 BSC戦略経営にTOCを組込む
松本憲洋(POSY Corp.)
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ビール・ゲーム・SCモデルはここをクリックしてダウンロードしてください。

キイワード : システム・ダイナミックス、バランスト・スコアカード、戦略経営、TOC、仮説、モデル・ベースト経営
バランスト・スコアカード戦略経営は、企業や行政機関などの組織における戦略経営のフレーム・ワークとして最適な選択であると考えている。そのメジャーループである「戦略学習ループ」において、戦略立案の前提となった仮説の検証を行った後に、戦略の更新を行うためのツールとして、SDによる「モデル・ベースト経営」を提唱している。しかし、具体的な更新内容を導く経営理論が不在であり、既存の経営技術に基づく試行錯誤に頼らざるを得ない状況にある。
さて、TOC(制約条件の理論)は、当初の「生産工程の改善手法」だけでなく、現在では、キャッシュフロー最大化の視点から意思決定をサポートする「スループット会計」、さらに市場需要の開拓や企業内の対立を伴う問題をブレークスルーする「思考プロセス」の機能も活用されている。そこで、BSC戦略経営のメジャーループにおいて更新が必要となった問題を、TOCを活用して分析し、対策を導く方法論の効果を、システム・ダイナミックス・モデルを使って考察した。
 

15:10−15:35 人件費管理を中心にした経営計画へのアプローチ
田中恒行(社団法人 日本経済団体連合会 労働政策本部)
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キイワード : システム・ダイナミックス、付加価値生産性、付加価値率、自己資本比率、労働装備率、総資本回転率
企業の目的は付加価値の創造であり、その効果的な創造(生産性の向上)と関係者への適切な分配が、企業の存続を市場経済において保証する。その観点から見れば、企業経営において重要な視点は、外部環境の変化を適切に捉え、内部環境をそれに合わせて適応させていくかである。先行き不透明な経営環境の中、経営計画の策定は不可欠である。特に海外に比べて高コスト構造と呼ばれる日本において、その最も大きな要因である人件費の管理は、企業の存亡を左右する重要な課題である。本稿は企業の発展と存続を、人件費管理を中心的な解決課題に据えた既存の経営計画策定モデルをベースに、外部環境との関連性(リンケージ)に焦点を当てた形でシステム・ダイナミックスを導入し、新しい経営計画のモデルを提案 した。


15:35−16:00 SOX法対応を戦略的競争優位に結びつける経営管理
朝倉俊明、志賀真保子(株式会社 富士通総研 イノベーション推進室)

 

最近、2008年度に日本企業においてもSOX法、COSO対応が求められるようになり、各企業は対応に迫れている。そのような潮流に対して、しっかりとした経営管理の仕組みを構築することが重要で、結果としてSOX法、COSO対応になるだけではなく、戦略的に競争優位に結びつけることができるものと認識している。
 本稿では、イノベーション推進室が行った、お客様の経営管理の仕組み構築支援プロジェクトの事例を紹介するものである。そのプロジェクトの特徴は、システムズ・シンキング手法を使ってバリューチェン単位での業務の可視化をおこない、目標を達成するためのKPIを設定し、そのKPIを共通言語として、モニタリングすることで組織の壁を超えたコミュニケーションが生まれる経営管理の仕組みを構築した点である。また、事業目標、事業計画を作成する上でも、システム・ダイナミックスを活用して、戦略施策のシミュレーションを行い事業計画策定支援を実施している。このように、様々なビジネスシーン利用されるシステム・ダイナミックスを事例を通じて紹介 した。


16:00−16:25 ビジネス・プロセスにおける内部統制の重要性
末武 透

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ビジネス・プロセスにおいては、そのビジネスの流れのダイナミックスをサプライ・チェーンとして理解する研究や解明のやり方が主体となっている。しかしながら、近年は、メインの流れをサプライ・チェーンとして把握し、直接的にコントロールするだけではなく、これを間接的にコントロールするしくみ(内部統制)や、定型企業ビジネスが形成する企業価値と株主の投資意志決定との関係が重要視され、企業ビジネスの持続性の点で、経営管理の大きなテーマとなっている。本研究は、CSR: Corporate Social Responsibility戦略の欠如や企業の内部統制の弱さ、情報セキュリティの管理の甘さなどの間接的な自律性管理のしくみ欠如が企業ビジスネス持続性に影響を及ぼし、最終的には株主の投資意思決定に影響を与えるプロセスをモデルにより解明を試み、内部統制、CSR、情報セキュリティなどの重要性の解明を試みたものである。


16:40−17:10 状況適応システムのモデリング:BSCを超えて
近藤史人(日本ヒューレット・パッカード株式会社)
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キイワード : システム・ダイナミックス、BSC、学習する組織、自己組織化、マルチエージェント、遺伝的アルゴリズム
BSCは、業績評価のツールから戦略管理のツール、さらには 、学習する組織の形成へと導入の効果が報告されている一方で、数多くの効果を生まない失敗例も報告されている。これは、Kaplanの理想とするマネジメント・システムが 、現在使用されているBSCというツールでは未完成の状況にあると考えられ、企業を状況適応システムとして成功に導くには 、ダイナミックな企業の振る舞いをシミュレーションするシステムが有効と考える。状況適応するシステムは、外部環境にダイナミックに適応し、進化するものであり、システムからの出力は 、外部環境に影響を与え、影響を受けた外部環境がシステムへの入力としてフィードバックされる。このサイクルを繰り返すことで価値創造体系が自己組織化するものが企業であるとするならば 、システム・ダイナミックスでそれをモデル化することは可能と考える。