SD閑話-2 2010年5月6日 松本憲洋(POSY Corp.)
タイトル:「システム・ダイナミックスとダイナミック・システム」
先週、SD閑話-1を書いた後で気付いたのですが、システム・ダイナミックスの“システム”と“ダイナミクス”との順番が逆になると異なる概念を表すことになります。私は
この逆の方を早く知りました。ダイナミック・システムは、制御工学では馴染みのある概念です。制御工学のほとんどの教科書の導入部分に、静的システム(Static
System)と動的システム(Dynamic System)の説明が出ています。
静的システムとは、ある時刻における出力値が、その時刻の入力値だけによって決まるシステムと定義ざれています。一方の動的システムは、ある時刻における出力値が、その時刻以前の入力値に依存するシステムと定義されています。
簡単な例として風呂を引き合いに出すと、先ず、蛇口の部分を一つのシステムと考えてみましょう。これは、蛇口の取手を捻ると、湯量が変るという機能を持ったシステムです。このシステムでは、ある時刻に流れ出る湯量は、その時刻の取手の捻り角でのみ決まりますから、これは静的システムです。
では、蛇口だけでなく風呂桶まで含めて一つのシステムとして考えてみたらどうでしょう。これは、取手を捻って湯を入れると、風呂桶の水位が増えて変るという機能を持つシステムです。このシステムでは、ある時刻の風呂桶の水位は、その時刻の取手の捻り角で決まるわけではなくて、その時刻までの捻り角の変化によって決まる湯の貯水量に依存しますから動的システムです。
端的に言うと、ダイナミック・システムは過去の履歴に依存するシステムですから、数学的には積分方程式で表現され、この点ではシステム・ダイナミックスで取り扱うモデルと同じです。
次に、システムについて考えてみましょう。もうすっかり昔のことで忘れてしまっているのですが、私は、“システム”という言葉を大学に入ってから使い始めたように思います。多分、所属した野本謙作研究室でウィナー(N.
Wiener)のサイバネチックス(Cybernetics)に出会った頃からではなかたかと思います。
この閑話も余談ですが、さらに余談です。1960年代当時の学生には洋書は高価でしたから、見え難い青焼きコピーをせっせと作ったものです。今思うと当時はそれが違法とも何とも感じていなかった。勉強するのだから当然だとまで感じていたように思います。蛸壺のような限られた環境にどっぷり浸かっていると怖いですね。公共事業に関る業界でよく起きる談合問題と同じ根源かも知れません。
最近になって、MIT出版から原書がいまだに販売されていることを知り購入しました。薄い小さな本で、18ドルだったのには驚きました。私にとって初めての海外の専門書で、当時は紙ファイルで2分冊のコピーにもなったと記憶している大著のはずだったのですから。
さて、話をシステムに戻しましょう。サイバネチックスの中では、最初のほうにthe solar
system(太陽系)が出てきたと思います。なるほど、これはシステムだと、やけに感心したことが、なぜか断片的な記憶となって残っています。“システム”には色んな定義がありますが、簡単には“構成要素が互いに関連し合うことによって機能する複雑な集合体”と定義して良いと思います。
したがって、システム・ダイナミクスとは、ダイナミック・システムについて、構成要素とその構成要素同士の関係性のネットワークに注目してその本質に迫り、定量モデルを使って、問題を解決する考え方や方法論であると言えるでしょう。
SD閑話-2 了
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