SD閑話-18 2012年6月20日  
松本憲洋(POSY Corp.)
タイトル:
「プロジェクトにおけるSDの活用

 

1.はじめに

“モデル・ベースト経営”(Model Based Management)は今年のシステム・ダイナミックス学会国際大会の主題です。筆者も2000年代初めから提唱してきた概念で、ビジネスにおいてシステム・ダイナミックスを活用する方法を表した言葉です。

最近ではこれに類した、モデル・ベースト何々あるいはモデル・ベース何々という言葉をよく聞くようになってきました。いずれも、実世界をコンピュータ上でモデル化して、そのモデルの世界で、各レベルの問題解決のための計画や設計を進め、さらに実現時の行動を予測することを指しているようです。そして、その結果を実世界に適用して、問題解決を図ることを狙いとしています。その対象は、モノづくりの対象である物としての製品だけではなく、ビジネスにおける戦略・戦術立案の段階から運用プロセスの段階まで、対象とする分野のライフサイクルのすべての段階を含んでいます。

モノつくりの世界では、単独の製品に関してある種の繰り返し作業になります。この場合、長年培ってきたその分野に特化した技術を使って、100%とはいかないまでもかなりの部分についてコンピュータ上でモデルを作り、それを使って問題を解決しています。ですからモノつくりの世界の人々には、モデルに基づくこのやり方をモデル・ベースト・マニュファクチャリングと称したとしても、違和感なく直ぐに受け入れられると思います。

他方、単独のモノつくりと違ってプロジェクトなどでは、取り扱う対象は単純ではなく、階層的なモデルにより表現する必要があるような複雑なシステムであったり、あるいは統合されたシステムになります。このような場合には繰り返しが比較的少ないので、対象のモデルはレディメイドのモデルでは対応できず、どうしてもオーダーメイドのモデルになります。その場合のモデリング手法としては、複雑でダイナミックな特性を表すことができるシステム・ダイナミックスが有効です。

さて、フォレスター先生によりシステム・ダイナミクスが創案されて間もない1960年代から1970年代にかけて、日本でも大学や大学院でシステム・ダイナミックスを用いて卒論や修論に取り組んだ学生が結構いたようです。しかし、当時のコンピュータは性能が十分でなかったこともあって、システム・ダイナミックスに興味は持ったが実用的な方法論ではないとの印象も強かったようです。そのほろ苦い体験が、その方々が産業界で中堅から上層の地位に就かれた1990年代以降の時点で、システム・ダイナミックスの活用促進に対して後ろ向きに作用したとの話があります。

また、1972年に出版された「成長の限界」の基になったローマ・クラブの活動には、日本でも産業界が後ろ盾になって、ローマ・クラブ日本チームを結成したり、各種のシンポジュームを開催して活動を応援したようです。しかし、ひとたび報告書が発表されると、その内容が余りに破滅的で産業界に否定的な予測であると捉えて、産業界はその後、ローマ・クラブの活動から離れていきました。これも、日本の産業界でシステム・ダイナミックを活用する動きが消えた原因の一つだと言われています。

以上のような理由もあり、日本では産業界でシステム・ダイナミックスを実用の場で活用している事例が少ないようです。しかし、もう過去のいきさつを体験している現役世代はほぼいない訳ですし、現代のように環境変化が激しく、様々な現象をダイナミックに捉える必要がある時代ですから、システム・ダイナミックスがそれに適していて有効と認識されるなら、ビジネスの世界でそれぞれが活用することを選択されるべきではないでしょうか。

少し前になりますが、日立評論の201112月号 特集「日立が考えるスマートシティ」において、システム・ダイナミックス・モデルに基づく計画作業を社会インフラ事業へ適用する例として、論文「社会インフラを支えるシステム技術」[1]が発表されていましたので、次の第2章で紹介します。

また、複雑なシステムを対象としたプロジェクトにおいては、システム・ダイナミックスによるモデルを使って検討を進める部分は、プロジェクト全体の中では一部をなすに過ぎませんから、それ以外の全体を表現する応用ソフトウェアの中に、モデル部分を組み込んでその環境下でシミュレーションを実施する必要が出てくる場合が多々あります。第3章では、そのための方法について紹介します。

 [1] http://www.hitachihyoron.com/2011/12/pdf/12a08.pdf

 

2.社会インフラ事業での活用例

総合商社と総合電機メーカーの存在は、日本の産業界における特徴の一つだと思っています。総合電機メーカーが主要なビジネス領域として取り組んできた軽電製品では、東アジアの新興諸国に押されて、しばらく活路を見失った状況が続いていたように思います。しかし、このところ、日立製作所、東芝、三菱電機の総合電機メーカー御三家は、インフラ事業をコアコンピタンスとして選択と集中を図り、いずれも好調な業績に復調しています。
 

インフラ事業は、それを構成する製品単体の設計・製作とは違って、構成要素である複数の単体を統合したシステムを総合的に運用(サービス)して、構成品の個別最適化ではなく、その総合的な便益の最大化を図ることが必要になります。そのためには対象を運用(サービス)する上での生活感(あるいは生活文化でしょうか)と、全体を統合する技術とが必要になってきます。
 

余談ですが、30年以上前に造船業に所属していた頃の話です。日本では大型貨物船は受注できるのに、なぜ大型客船は受注できないのだろうと仲間内で話したことがありました。その結論は、菜っ葉服(工場作業着のことで、多くは緑色だったから)を着ていては大型客船の設計はできないだろうというものでした。この話は与太話ですからいささか極端ですが、客船の愉しみを知った人間でないと客船の設計ができるはずがない、仮に設計したとしてもそれでは乗客は愉しめないというものです。すなわち、客船運用に関する生活文化と統合化技術とが必要というわけです。その後、大型客船を受注して建造された造船会社では、付け刃と言われながらも設計技術者に客船クルーズを体験させたと聞いた記憶があります。
 

さて、社会インフラ事業の場合には、既に先達事業が存在して、それを参考としてプロセス・ベンチマーキング的に使うことができる場合もあるでしょう。あるいは、社会で全く新しい社会インフラへの取り組みもあるでしょう。例えば、スマートシティの場合は後者に分類され、今までに実用化された例がないわけですから、社会への問い掛けの意味も含めて実世界での実証実験に取り組まれている状況が続いています。これはスマートシティの運用における生活文化と統合化技術とについて体験を積んでいるということだろうと思います。
 

先達事業があるなしにかかわらず、最終的には対象とする社会インフラのモデルをコンピュータ上に構築して、その上で運用に関する様々な試行錯誤を繰り返して生活文化と統合化技術の疑似体験を蓄積して、それをベースに計画・設計を進めるステップに進むことになります。

その具体的な方法を説明した例として、前述の日立評論の「社会インフラを支えるシステム技術」について、その概要を次に紹介します。

 

2.1 「社会インフラを支えるシステム技術」の概要

(1)原論文の全体紹介

社会環境の変化に対応した電力・鉄道・水などの社会インフラ・システムを提供するために、変化を常態と考えて、社会全体の持続可能性を実現するシステム・コンセプト「共生自律分散コンセプト」を提唱しています。

このコンセプトにおいては、都市の発展に伴う社会環境の変化や災害発生などによる急激な変化などの過程に対して、社会全体が自律的に柔軟に機能し続けることを目指しています。

このコンセプトを実現するため、次の三つのフェーズを想定しています。
  @   計画フェーズ    A 構築フェーズ    B 運用・評価フェーズ
 

上の三つのフェーズは右図に示すように、トライアングルを構成しています。

中央に「価値命題」が配置されていますが、これはフェーズ全体を進める前提条件です。システムの開発プロセスは、「計画」から「構築」に進み、「運用・評価」を経て次回の「計画」に進みます。そして、システム全体の最適化を目指して、このプロセスを繰り返すことになります。その際、三つのフェーズの情報を繋ぐのがモデルの役目です。
 

原論文の主題は、「自律分散コンセプト」です。しかし、ここではSD閑話として取り上げていますので、三つのフェーズの簡単な紹介の後は、システム・ダイナミックスの活用に関係が深い、「計画」フェーズに絞って話を続けます。
 

計画フェーズ

生活者、都市運営者といった多種多様な価値観を持つ複数のステークホルダーの行動やニーズを予測しながら、それぞれの課題解決に最適な都市構造や機能を「計画」します。

このフェーズのシステム技術は、「社会システムモデリング&シミュレーション技術」です。

これにより、ステークホルダーへの情報の流れを制御することで、システムを最適・安定にいざないます。
 

構築フェーズ

都市の成長・生活の変化などの社会環境やシステムに必要とされる機能の変化を見据えて、ライフサイクルや世代を超えた進化が可能なシステムを「設計」します。

このフェーズのシステム技術は、「システム刷新技術」です。

これにより、社会インフラ・サービスを支える物理構造/事象を原理・原則としてモデル化することで、サービスを止めずにシステムを再構築します。
 

運用・評価フェーズ

平常時から緊急時へのスムーズな移行、新興国や異業種に横展開する際の異なる環境への素早い対応を実現するため、目的や環境の変化に即応して、システム構造や機能の優先順位を変化させ、「全体最適化」を図ります。

このフェーズのシステム技術は、「異種システム連携技術」です

これにより、所有者の異なるシステムを動的につなぎ合わせることで全体システムの最適な運用を実現します。

 

原論文によると、システム・ダイナミックスを活用しているのは計画フェーズなので、前にも述べたように、以降では計画フェーズに絞って紹介します。原論文の主題である「自律分散コンセプト」そのものについては原論文をご参照ください。

 

(2)「社会システムモデリング&シミュレーション技術」の概要紹介

システムの計画フェーズでは、生活者、都市運営者、利用される機器・施設など、システムを構成する諸々のモノをステークホルダーと定義しています。そして、ステークホルダーの相互作用を表現する社会システムのモデルを構築してシミュレーションを行っています。シミュレーションで目指しているのは、異なる価値観を持つ複数のステークホルダーの行動やニーズを予測して、課題を解決するのに最適な都市構造や機能を計画することです。
 

最適な都市構造や機能を計画する上で考慮すべき重要な事項は次の2点です。

複数のステークホルダーが存在することから、多主体・多目的のシステムをかんがえること。

システムとしての安定性を実現すること。
人をはじめとしてステークホルダーは多様な価値観を持っていますから、取り扱うシステムは不確実な複雑系となります。その下で、上記の2点を考慮できるモデルを構築する必要があります。
 

スマートシティをモデリングするための技術コンセプトとして、日立グループでは「ハーネシング」に着目しています。「ハーネシング」は、私自身がよく理解できないのですが、原論文によると、都市においては自律分散的にふるまうステークホルダーたちへの情報の流れを制御することでシステムを最適・安定にいざなうことを実現するコンセプトだそうです。構築したモデルの上で仮想経営を実施して、システムの最適・安定を求めるための一つの手段と理解していいだろうと思います。
 

具体的なモデリングのアプローチについては以下のように述べられています。

@   都市のステークホルダーたちの価値観を分析し、KPIを抽出する。

A   都市の安定、最適の概念を評価式として形式化する。

B   ステークホルダーに関しては、実績データを分析する。
データがない場合には仮説を立てて、都市運営者や生活者の行動を期待値や分散といった形で定量化する。

C   ステークホルダー同士の関係性を分析する。

以上のアプローチでモデリングを実施した後に、「誰に」、「いつ」、「何の」情報を流したら、システムが有効に機能するかを、安定性、最適性、公平性の観点で評価するためにシミュレーションを実施します。この最後のプロセスを原論文では「ハーネシング」と呼んでいます。

 

(3)「社会システムモデリング&シミュレーション技術」の適用例

原論文には、交通インフラ計画に適用した下記の例が示されています。図からも分かるように、モデリングにはPowersim Studioが使われています。

 

 

モデリングにおいては、次の設定がなされています。評価指標KPIとしては、交通渋滞度、生活者にとっての快適性、安全性などが設定されています。ステークホルダーとしては、生活者、交通事業者などが設定されています。関係性としては、ステークホルダー間のサービスの授受が設定されています。

シミュレーションにおいては、トレードオフの関係を可視化し、想定される条件ごとに将来の変化を定量評価することで、例えば、利用者への誘導情報の量・タイミングなどの条件を導き出しています。さらに、実際の交通インフラの計測実績値を基に、より実績にあうようモデルを改変しています。

 

2.2 「モデル・ベースト経営」との対比

モデル・ベースト経営とは、企業や行政機関などの経営に関して、コンピュータ上にモデルを構築し、仮想経営を通して経営分析し、そこに存在する問題を解決するための戦略・戦術・運用プロセスなどを計画・設計し、それを実世界に適用して実現することです。実世界に適用する段階は予定通りには進みませんので、その段階でモデルを使った上述の経営分析に戻り、ループ状に活動は繰り返されることになります。

経営においてモデル・ベースト経営を適用できる段階は、右図に示すように5つに区分けできます。

社会インフラ・プロジェクトは、この図にそのままあてはまるわけではありませんが、日立評論の原論文の計画フェーズは、右図の「企業・事業戦略の立案と適応」に相当するものと思います。
また、今までにない新しい社会インフラの適用の場合には、その上位の「社会・経済状況の分析」も含まれるかも知れません。

J,D,Stermanは教科書「Business Dynamics」の第1章の中で、「学習過程の改善:仮想世界の効能」と題して実世界と仮想世界およびメンタルモデルの関係を、同書の34ページ、図1-14に示しています。その図を簡潔に表現したものが右下の図です。

この図はメンタルモデルの学習過程を重視した図になっていますので、日立評論の原論文の「構築」と「運用・評価」の二つのフェーズが、ここでは「実世界」と一つにまとめられています。

それで、原論文の三つのフェーズのトライアングルに位置関係を合わせて右の図を書き換えたものが下の図です。

右上の図の天地を逆にして、「実世界」は「構築」と「運用・評価」とに分けて表現しています。「計画」の部分は、メンタルモデルの部分がプロジェクトメンバーの頭の中の思考モデルで、仮想世界が「社会システムモデリング&シミュレーション技術」により構築したモデルの世界です。原論文では、ここの「仮想世界⇒活動情報⇒意思決定⇒仮想世界」のフィードバックループで、ハーネシングを行い、安定性、最適性、公平性の観点から評価を行って、全体最適条件を探索していることになります。

このような形で社会インフラのプロジェクトを実施すればするほど、仮想世界による疑似体験により社内のスタッフのメンタルモデルはブラッシュアップされ、対象の社会インフラに関する生活文化と統合化技術も系統だって整理され蓄積されることになります。

社会が変化する中で、新しい取り組みにおいて立ちはだかる壁を乗り越えるためには、新しい世界を切り開くわけですから、従来の実績に関する経験だけでは全くの力不足です。だからと言って経験が不要かというとそうではありません。人は全てを論理的推論によって演繹的に決めてかかることができるわけではありませんから、自らが構築した仮説について検証のための試行錯誤を繰り返すことによる経験をベースに、少しずつ問題を解決しながら進む必要があります。

ここで、「自らが構築する仮説」と「検証のための試行錯誤を繰り返すためのツール」がポイントです。前者の「自らが構築した仮説」は、その企業の中でその事業に関して蓄積されている知識でありスタッフの知的ポテンシャルそのものです。後者の「検証のための試行錯誤を繰り返すためのツール」は、モデリング&シミュレーション技術です。

後者は、システム・ダイナミクスを活用してモデル・ベースト経営の概念に沿って、仮説検証のためのツールとして構築することができますが、前者は様々な要素が関係していて、単純には解決策を見出せません。ただ、一つ言えることがあります。それは、上図のメンタルモデルの自己増殖のループからも分かるように、ひとたびこのフィードバック・システムが動き出した企業では、関係するスタッフのメンタル・モデルは自動的に段々とポテンシャルアップが図られるのです。これはいわゆるレインフォーシング・フィードバック・ループ(Reinforcing Feedback Loop)になっています。

このやり方を取り入れた企業は様々な部署で、自律分散的にスタッフの知的ポテンシャルアップが図れることになります。これは、社員育成の観点から、「ゲリラ戦的ポテンシャルアップ作戦」と称しても良いのではないでしょうか。

ここで取り上げたプロジェクトに限らず、モデルを活用する場は、読者の皆様が所属している企業や行政機関などの経営のあらゆるところに存在します。例えば、財務問題の中の営業推進モデル、工場生産計画の中のSCモデル、事業計画の中の人事モデル、GISソフトと連携した下水道計画モデル、避難誘導問題の中の放射能飛散モデル、医療行政の中の医療保険モデルなど、システム・ダイナミックスに基づくモデルと応用ソフトが一体となって問題解決にあたらねばならない例は多くあります。

次の第3章では、モデルを応用ソフトと一体にして問題解決を図る具体的な方法について紹介します。

3.応用ソフトの中でモデルを走らせる仕組み
システム・ダイナミックスに基づきモデルを構築する際に、モデルだけで目的が達成できる場合と、モデル以外のソフトウェアと組み合わせることで目的が達成できる場合とがあります。また、モデル構築の目的としては、分析とか設計とか限られた少人数のメンバーが関係する場合と、公開情報とか多点での活用とか多人数が関係する場合があります。それぞれで使用するためのモデリング・ツールを、以下の表にまとめて示します。
    
上表で上の行は単体のPCVirtual PC上で活用する場合、下の行はインターネット、イントラネットあるいはクラウド環境で活用する場合です。

表の中にある下記の3種類のツールの組み合わせを“Studioの開発者向けパッケージソフト”(Studio Developer Suite)と呼称しています。
  Enterprise + SDK + Simulation Engine Server/Workstation

このパッケージは、上記の表で示したように、プログラムの開発者が、応用ソフトの中にモデルを組み込み、その応用ソフトや単体のモデルをネットワークのサーバーやスタンドアロンのPCに配布して、他者に使用を許可するために使います。

    
さて以降では、対象とする業務向け応用ソフトに、ダイナミックな挙動の予測を可能とするモデルを組み込み、応用ソフトと一体として、PC上でシミュレーションを実施する状況を想定して、その開発段階と実用段階とについて説明します。

 開発段階

(1)モデルの開発

モデリング・ツールのStudio EnterprisePCにインストールして、応用ソフトに組み込むモデルを開発します。モデルが完成後に、モデリング・ツールなしでモデルを動かすにはSimulation Engineが必要です。また、Simulation Engineの下でモデルを動かすには、そのモデルをStudio ExpertProfessionalで完成したのではだめで、最終的にはStudio Enterpriseで完成させる必要があります。
Studioのユーザーの中には、Studio ExpertあるいはProfessionalをお使いの方が沢山いらっしゃいます。その場合には、その機関で1本だけはソフトウェア設備としてStudio Enterprise版を購入していただく必要があります。
モデル単体の開発は、各自でお使いのStudio Expert/Professional版で行い、最終段階だけはStudio Enterprise版を搭載したPC上で完成前のモデルを開いて、上書き保管していただきます。そうすれば、後述のSDKを使ってインターフェースを構築し、Simulation Engineの下で走らせることができます。
 

(2)応用ソフトの開発

PC上で応用ソフトを開発します。
 

(3)SDKのインストール

PCSDKSoftware Development Kit)をインストールします。すると自動的にモデルを走らせるためのSimulation Engineの開発者版(Simulation Engine Developer)がインストールされます。この開発者版はソフトウェアのテストにのみ使用でき、他の目的で使用することはライセンス契約上で許可されていません。
また、この開発者版は、テストが使用目的であるなら、他のPCにインストールすることもできます。たとえばサーバーにインストールして、応用ソフトのネットワーク操作のテストを実施することなどです。
 

(4)インターフェース

SDKを使えば、Studio Enterpriseで構築したモデルのためのWebページやデスクトップ・ページのインターフェースを作成できます。それによりシミュレーションを実施するうえで、使い慣れた操作性を得ることができます。

Simulation Engineの様々な機能にアクセスするために、SDKにはオブジェクト・モデルが準備されています。このオブジェクト・モデルは、COMComponent Object Model) インターフェースで構成されていて、使いやすいことと特定の言語に限定されていないことが特徴です。

様々な開発環境として、たとえば、like Visual Basic.net, ASP.net, script engines, Microsoft Office, most C++ compilers あるいはActiveX controls をサポートしているその他の開発ツールが適用可能です。これによりシミュレーターのインターフェースを直感的で簡単な方法で作ることができます。
このようにして組み込んだインターフェースを介して、モデルの開閉、変数の読み込み書き出し、シミュレーション実行制御、外部データベースとのデータの入出力などが可能になります。
さらに、企業の基幹データベースとモデルとを接続することができますから、企業の実データに基づく精度の高いシミュレーションが実行可能になります。
 

なお、上記の(3)と(4)のフェーズでは、モデリングの専門家と共にSEの参加が望まれます。

 

3. 2 実用段階

開発者が開発したモデルを組み込んだ応用ソフトを、試験的にそのPC上でのみ使うのであるなら、上述の開発段階の環境で対処できるかもしれません。

しかし、顧客企業あるいは自社の他部署で使用する場合には、開発者版のSimulation Engineを使うことができませんから、それに代わるSimulation Engineとして、Simulation Engine Server(ネットワーク上で使用)、あるいはSimulation Engine Workstation(単独PC上で使用)を準備する必要があります。
 

(1)Studio Simulation Engine Server

単独のモデルあるいはモデルを組み込んだ応用ソフトを、ネットワーク上のサーバーに配置し

て、ネットワーク環境でモデルあるいは応用ソフトを使用します。Webブラウザー上で単独のモデ

ルを走らせることも可能です。

同時に実行できる人数により価格は異なります。
 

(2)Studio Simulation Engine Workstation

分析や設計では、特定のメンバーが単独のPC環境で業務を推進する状態をよく目にします。

このような場合には、開発環境なしでモデルを走らせるためのEngineとして、Simulation

Engine Workstation を用います。

モデルや応用ソフトを配布するPCの台数により価格は異なります。(1)のServerに比べて、Workstationは廉価です。

3. 3 参考価格

EUレートにより日本円価格は変動しますが、現時点の価格を参考までに掲載します。
    

システム・ダイナミックスのモデルは大規模になりますと、システム思考に基づくモデリングの専門家と、対象としている業務の専門家とが集まって、問題解決のためにモデルと応用ソフトの開発作業を進めることになります。
 

モデリングの専門家の部署/会社では、以下のソフトウェアが設備として必要です。

モデル開発用のEnterprise版(完成前のモデルの構築はExpert版でも可能)

SDKSimulation Engine Developerを内蔵)
 

また、モデルあるいはモデルを組み込んだ応用ソフトを使用する顧客部署/会社では、以下のソフトウェアを稼働環境として購入する必要があります。

ネットワーク環境で使用する場合 :Studio Simulation Engine Server

スタンドアロンのPC環境で使用する場合 :Studio Simulation Engine Workstation

 

補足
Powersim Software AS
では、Studio 9 EnterpriseSDKとを、1ヵ月間、無償で貸し出しています。POSY社(falcon1999@posy.co.jp)までお申し込みください。

 

 

SD閑話-18 了