SD閑話-13 2011年4月18日(5月11日部分改訂) 松本憲洋(POSY Corp.) タイトル:「 放射線生物学者に聞く放射能災害からの自己防衛」
M9という日本だけでなく世界でも稀な大きさの地震に襲われ、津波で3万人近い人々が命が奪われました。被害者の皆様に心からお見舞い申し上げると共に、日本国民を挙げて復興に取り組まないと、日本そのものが沈没するのではなかろうかとの恐れを抱いています。
そのような避けがたい天災のおまけのように発生した原子力発電所の事故が腹立たしくも主役に躍り出て、世の中に不安とともに物理的にも放射能を撒き散らしています。放射線は見えないのと、将来への身体への影響が不明なこととで、我々に必要以上の心理的な負担をもたらしています。皆さんも事実か風評か分からぬままに、マスコミや口コミの情報に心を痛めておられることと思います。また、日本としても国内における実害だけでなく、国際的な信用力の失墜により、広い分野で計り知れない損失を被っています。
さて、私は広島県の出身です。子供のころより原爆の恐ろしさとその後の放射能障害の不安について、直接体験された方々の話を聞いて育ちました。中学・高校時代にも、被ばくされた先生方から授業を受けていました。その中学・高校の東京地区の同級生約70名でメーリング・リストを運用しています。
そのメンバーの一人に放射線生物学を専門とする学者・石井裕氏がいます。阪大医学部放射線基礎医学講座で研究・教育に従事した後、退職した今は、就実大学薬学部(岡山市)で教授を務めている友人です。彼は事故が発生した直後から我々のメーリング・リストに、現在の放射能問題についての分かり易い解説を20回弱にわたり投稿してくれました。
メーリング・リストでの情報はグループ内に限定していますので、そのまま外に出すことはできません。それで、4月8日に大阪に彼を訪ねて、標記のタイトルでインタビューし、“SD閑話-13”として資料をまとめました。私自身は、もともと重工・造船関連の技術者で、放射線科学に関してずぶの素人です。したがって、以降のまとめの中で、彼の真意を十分に伝ることができていなかったり、あるいは一部に理解を誤った部分もあろうかと思います。そのような文章の間違いに関する責任は全てインタビュアーである私・松本憲洋に帰すことを最初にお断りしておきます。
今回のSD閑話を取りまとめるにあたって、私事で恐縮ですが、私の子供達とその家族に理解してもらえることを意識しました。多分、私の年代に近い人達の多くが、我々の世代についてよりも子供や孫の世代について心配をしているだろうと思ったからです。したがって、内容は放射線科学において、初歩的な話ばかりで冗長になってしまいました。また、何を書いても良いとしているこのコーナーではありますが、SD閑話と題していますので、僅かでもSDに関連した部分を記載したいと思いました。それで、内部被ばくと表面汚染の部分とに、SDの活用に関する情報を加えました。ご容赦ください。
今回の原子力発電所に関する問題は、大きく分けると原子炉に直接関連する狭い地域での問題と、原子炉から放出される放射性物質による広い地域での問題に分けて考えられます。工学・工業に携わった者としては、前者に関して、次のような疑問や意見を持っています。 @ 原発の建設に関係した多くの権威者が、想定外の事故であったと安易に述べることに対する腹立たしさ A 原子力発電所のリスク管理設計やシステム設計に、統合的な整合性はあったのだろうか? B 東京電力は様々な事故を想定して、仮想事故対策演習(経営シミュレーション)などを含むリスク対策を、十分に実施していたのだろうか? C 首相官邸(内閣官房)、内閣府・原子力安全委員会、経産省原子力安全・保安院、文科省・科学技術・学術政策局、東京電力などの主要関係機関の統制のなさについての一国民としてのむなしさ
D
原子力発電所は火力発電所と違って事故などに対して対応方法が定まっていないことが明白になった。
しかし、今回のSD閑話では、前者に関してではなく、後者の原子炉から放出される放射性物質による広い地域における問題に限って取り上げました。したがって、現場で損傷した原子炉の安定化作業に当たっている人々の被ばく問題には触れません。
このような性格の問題では、いつまでたっても全関係者(今回の場合は日本国民)が完全に意見一致して合意することは不可能だと思われます。関係者はそのことを認識した上で、それぞれがまあまあ我慢できるアコモデーションを得ることしかできないのではないでしょうか。いわば、ソフトシステム・アプローチによる取り組みが必要なのです。呉越同舟の模索ですね。
そうであるなら、為政者は決めるべき基準の背景となる仕組みを明確にした上で基準値を定め、国民に明瞭にその決定プロセスと基準値とを説明する必要があります。我々個々人あるいは個々の組織は、必要と考えれば、国が決定した基準値とは別に、その背景となるプロセスから自分のためのより厳しい基準値を設定して、自己防御する以外にないのだろうと思います。もちろん法制化されていることは遵守しなければなりません。
今回そんな視点に立って、石井氏の解説を、私なりにまとめました。
【 目 次 】
1.
放射線生物学者・石井裕氏の基本アドバイス
2.
放射能と放射線の基礎
日頃耳慣れない放射線関連の単位は分かりにくいので、少々厳密さを欠きますが平易に説明します。 (1) 放射性物質の放射能の強さを表す単位:ベクレル(Bq) 放射性物質は安定化するために壊変し、その時に放射線を出します。1秒間の壊変数の単位が“Bq”(壊変数/秒)で 、放射能の強さを表します。表面汚染度は、単位面積当たりの1秒間の放射線数で表し、野菜などの汚染度は、汚染している核種の種類ごとに、単位重量当りの1秒間の放射線数で表します。
12,000cpm÷0.5=24,000count/(min*100cm^2)=4count/(s*cm^2)=4Bq/cm^2 (2) 放射線照射を受けた物質が吸収した放射線量を表す単位:グレイ(Gy=J/kg)
放射性物質から放射された放射線を受ける単位重量のモノが、吸収したエネルギ量を表す物理的な単位です。物質1kgが1ジュールのエネルギを吸収することを、1グレイ(Gy=J/kg)の吸収線量と言います。 (3) 人体が受けた放射線の影響度を表す単位:シーベルト(Sv)
放射線を吸収した場合の人体への影響は、放射線の種類によって程度が異なります。放射線ごとの影響の程度は“放射線荷重係数”により表します。シーベルト(Sv)は、放射線が人体に吸収された場合の、物理的ではなく、生理的な影響の程度を表す単位です。したがって、防災上あるいは生理学上で決められた放射線の影響の度合いを表す単位であると言えます。
アルファ線
:20 今回の事故で度々検出されているのは、ヨウ素-131とセシウム-137です。これらの核種はいずれも、ベータ線とガンマ線を放射します。両放射線の放射線荷重係数は共に1ですから、今回の取扱では、シーベルト値はグレイ値に等しいので、下式で表されることが分かります。
人体への影響度シーベルト値=人体が受けた吸収線量グレイ値 個人線量計による外部被ばくの計測でも、空間線量の計測でも、測定器で計測しているのは、グレイ(Gy)単位の吸収線量ですが、表示の単位は、吸収線量に放射線荷重係数をかけてシーベルト(Sv)単位です。
4. 放射線被ばく線量(外部被ばく、内部被ばく)とその計算方法
(1) 被ばくによる障害
急性障害は細胞が死ぬほどの損傷を受ける場合で、ほとんどが1ヵ月以内に出る症状です。放射線を短時間に全身に被ばくした場合には、線量によって、次のような症状が確定的に出るといわれています。 (2) 等価線量、実効線量、預託線量
被ばく線量を評価する上で、放射線が人体に影響する度合いは、前にも述べたように、放射線の種類により異なります。その影響係数を“放射線荷重係数”と呼称して、人体が受けた放射線のエネルギ量を表す物理量である吸収線量(Gy:グレイ単位)に乗じて、人体への放射線の影響度を表す“等価線量”(Sv:シーベルト単位)を求めます。 しかし、人体を構成する各組織や臓器によって、放射線が及ぼす影響度は異なります。この相対的な放射線に対する感受性を“組織荷重係数”と呼び、各組織や臓器で吸収された等価線量に乗じて(荷重して)全組織や臓器について加算したものを“実効線量”(Sv単位)と呼びます。 国際放射線防護委員会(ICRP)編のICRP Publ. 60に掲載されている組織荷重係数を参考までに以下に掲載します。 組織・臓器 : 組織荷重係数 小計 生殖腺 : 0.20 0.20 赤色骨髄、結腸、肺、胃 : 0.12 0.48 乳房、肝臓、食道、甲状腺、膀胱 : 0.05 0.25 皮膚、骨表面 : 0.01 0.02 残りの組織 : 0.05 0.05 (合計=1.00) 補足:上記の係数はICRP1990年の勧告で、現在日本の法律で採用されているものです。ICRP2007年の勧告では、巻末の附録−2に示すように一部の係数が変更されています。
放射性物質が体内に入って内部被ばくした場合には、その放射性物質が体外に排出されるまで、各組織や臓器は放射線を受け続けます。その間に、その放射性物質は自分自身の壊変により安定して放射能が減少すると共に、人体の代謝機能により放射性物質は排出されます。この物理的半減期と生物学的半減期とを合わせて総合した半減期のことを実効半減期と呼ぶことがあります。
等価線量にしても実効線量にしても、時間経過と共に減衰していきます。厳密に考えると、経過時間と共に減少するその時点ごとの放射線量について、被ばくに対する対応策を講じる必要があるのですが、被ばく者にとって安全側でもあることから、その時間経過について全て合計した放射線量を最初の1年目に受けたとして対応策を講じることになっています。
このようにして求める放射線量のことを“預託線量”と呼びます。したがって、等価線量については“預託等価線量”、実効線量については“預託実効線量”となります。さて、積算する時間軸ですが、一般成人に対しては、摂取後の50年間、子供に対しては摂取時から70歳になるまでを積算時間範囲としています。
(3) 外部被ばくと内部被ばく
以上の話は架空の話であって、実現はできません。そこで、人体の生理現象や放射性物質の崩壊過程を数学モデルとして表現しておき、そのモデルの上で上記のプロセスを実行します。入出力のプロセスを下図に示します。出力Bの入力Aに対する比B/Aは伝達関数ですが、これを実効線量係数と呼んでいます。この値をあらかじめ求めておけば、仮定した体内プロセスが線形ですと、この実効線量係数を摂取量Aに乗ずることで、出力である預託実効線量を求めることができます。 内部被ばくについては、預託実効線量が被ばく管理の対象です。したがって、この値と外部被ばくによる実効線量とを加算した値が、各種規準で評価する数値になります。
現在、上記の内部被ばくに関する架空の話は、コンピュータ上で実施されています。ICRPでは代表的な人の体格と生理的な特性をもつ標準人を設定して、摂取した放射性物質の臓器間の移動や沈着、放射性物質の壊変による放射能の減衰、各臓器の被ばくなどを数式で表現した線量評価モデルを構築して公表しています。実効線量係数はその数学モデルを使ってシミュレーションを実施して求められています。
(4) 計算式のまとめ
外部被ばく
5. 自己判断のための実効線量と発ガン率の関係
6. 放射線被ばく線量に関連する各種の基準値 1.0:一般公衆が1年間にさらされてよい人工放射線の限度(ICRPの勧告) 妊娠中の女子の放射線業務従事者が妊娠を知ったときから出産までにさらされてよい放射線の限度。
2.0:妊娠中の女子の放射線業務従事者が妊娠を知ったときから出産までにさらされてよい腹部表面の 5.0:妊娠可能な女子の放射線業務従事者が法定の3か月間にさらされてよい放射線の限度。 10 :日本国原子力安全委員会の指針では一般人の「屋内退避」 50 :電離放射線障害防止規則による放射線業務従事者が1年間にさらされてよい放射線の限度。 日本国原子力安全委員会の指針では一般人の「避難」。 自衛隊・消防・警察が1年間にさらされてよい放射線の限度。 100:人間の健康に影響が出ると証明されている放射線量の最低値。 放射線業務従事者が法定の5年間にさらされてよい放射線の限度。 放射線業務従事者が1回の緊急作業でさらされてよい放射線の限度。
250:福島第一原子力発電所事故での緊急作業従事者に限って適用されている被曝線量上限。
飲料水、牛乳・乳製品 : 300Bq/kg
野菜類(根菜、イモ類を除く) :2000Bq/kg 放射性セシウム 飲料水、牛乳・乳製品 : 200Bq/kg 野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他: 500Bq/kg
(3) 放射線管理基準に基づく表面汚染密度限度
放射線管理区域内で人が触れるモノの表面の放射性同位元素の表面密度限度: アルファ線を放出する放射性物質の場合 : 4Bq/cm^2 アルファ線を放出しない放射性物質の場合:40Bq/cm^2
管理区域からの持ち出し物の表面密度限度:
(1) Excelによる計算フォーム (2) 放射線被ばく線量の計算例
極端な被ばくの例について計算してみます。
(3) 乳児と幼児への被ばく線量に関する配慮 甲状腺でチロキシンというホルモンを合成するときにヨウ素を必要としますので、ヨウ素を摂取すると体内では100%甲状腺に溜まります。甲状腺で必要としない量は排出されます。そんな理由で、放射線ヨウ素を摂取すると甲状腺ガンの原因になるわけです。
(4) 女性への配慮
女性とくに妊娠可能な女性の場合には、被ばくに関して法制上からも厳しい規制が掛けられています。
【計算フォーム】
【架空条件についての計算例】
8. インタビュアーから一言
しかしその一方で、社会システムの中に既に組み込まれている原子力発電所の貢献度についても認めざるを得ないわけで、結局は総合的な便益性から判断せざるを得ないことになります。さりながら、国として総合的な便益性で決める基準とは別に、個人にとっては住所や家族構成などの属性によっても判断は異なるわけです。その判断のためには基準が導かれている背景とかプロセス、あるいは規準値を決定するための環境データが不可欠です。もし、それがないなら、“お上が決めたことには逆らうな、黙って従え”になってしまします。
放射線科学や原子力にはずぶの素人の私でしたが、今回の事故と石井裕氏からの情報で、ICRPの勧告についても今回初めて目にしました。その2007年勧告が事故の起きていない通常の状況だけでなく、緊急の状況と現存する状況とを取り上げており、正に今回の福島第一原発事故を見通していたのではないかとさえ感じました。
当然のことだと思うと同時に、社会の利益のために自分の命を賭して志願する人の名誉と生活を、後々までバックアップする社会の仕組みと文化(雰囲気)がぜひとも必要だと思いました。そう先ではなくICRPの2007年勧告が日本の法令に組み込まれることになると思います。その時には法令改訂と同時に、放射能侍あるいは放射能騎士が志願し易い社会環境・文化も醸成したいものです。
結局、わが身に降りかかる今回のような問題に対しては、お上の指示を求める指示待ちではなく、石井裕氏が強調しているように、『本情報を参考にし、公表されている信頼できる計測値を見て、現状を冷静に認識し、自ずから採るべき行動を自分で判断する』こと以外は考えられません。
よくあるゆでガエルの例えで考えてみましょう。日本人は潔癖温泉に皆で浸かっています。源泉かけ流しの湯口に最初は含まれていなかった潔癖菌が時間と共に少しずつ増えてきました。しかし、気持ちいい温泉で“良い湯だな〜”と歌っている我々は、それに気付きませんでした。とうとう潔癖病にかかってしまった我々は、自分自身の多様性さえ受け入れられないほどの重症に、もう陥っているのかも知れません。
国際放射線防護委員会(ICRP:International Commission on Radiological Protection)の前身は、1928年に創設されました。このICRPは放射線防護に関する勧告を行う非営利、非政府の専門家による国際的な組織です。16〜7年毎に出す勧告には権威があり、国際原子力機関(IAEA)の安全基準や世界各国の放射線障害防止に関する法令の基礎になっています。日本では1990年の勧告に基づいて関連した法令が施行されています。現在は2007年の勧告に沿って、法令を改訂するための作業が進められています。
2007年の勧告において1990年勧告から大きく変更された内容は、被ばくの状況が“行為”と“介入”という分類から、“計画された状況”、“緊急時の状況”と“現存する状況”に変ったことです。この分類を現在の原発事故に当てはめると、3月11日までが計画された状況、現在が緊急時の状況、破壊された原子炉が廃炉として安定した状態になった頃からが現存する状況に相当します。
一般公衆(我々のことです)については、三つの状況それぞれに対して次の指標が導入されました。計画された状況に対しては従来通り“線量拘束値”、緊急時の状況と現存する状況に対しては“参考レベル”です。計画された状況では、線量限度は規制当局(日本の法令)が許容する最大線量を意味していて、従来どおり1mSv/年です。緊急の状況では、参考レベルは20〜100mSvの範囲で設定され、防護活動の計画の策定にあたっては、この線量を越えない戦略を立てることになっています。現存する状況は、例えば事故後の復旧段階の被ばくが想定されますが、この状況では参考レベルとして1〜20mSvの範囲が設定され、汚染地区の住民が移住しなくて良いように、現実的な配慮がなされています。
職業被ばくについては、以下の指標が導入されました。女性に対してはさらに厳しい限度が設定されていますので勧告の原文またはICRP2007年勧告(Pub.103)の国内制度等への取り入れについて第二次中間報告などを参照してください。計画された状況については現状と変らず、実効線量限度として、5年間の平均が20mSv/年以下で、いかなる1年間でも50mSvを越えてはいけないことになっています。緊急時の状況については参考レベルが設定されています。
現時点の日本の法令では、放射線業務従事者が1回の緊急作業でさらされて良い放射線量の限度は100mSvでした。政府は3月16日に緊急処置として、福島第一原子力発電所事故での緊急作業従事者に限って、被ばく線量の上限を250mSvに引き上げました。しかし、ICRPは3月31日に、この値が国際的に見てかなり厳しい値であり、事故の重大さを考えると緊急作業従事者については基準を緩和して、ICRPの2007年勧告に沿って、500あるいは1000mSvの現実的な値に設定するように提言しています。
附録−2: ICRP2007年勧告による組織荷重係数 ICRP
Publ. 103 組織・臓器 :組織荷重係数 小計 生殖腺 : 0.08 0.08 赤色骨髄、結腸、肺、胃、乳房 : 0.12 0.60 肝臓、食道、甲状腺、膀胱 : 0.04 0.16 皮膚、骨表面、脳、唾液腺 : 0.01 0.04
附録−3: システム・ダイナミックスの表記法による概略の内部被ばく線量評価モデル
附録−4: システム・ダイナミックスとGISとの統合による汚染ガス拡散予測の例 今回の原発事故で、放射性物質の飛散する様子もシミュレーションすることができる大掛かりなシステム“SPEERI”が、既に開発済であることを知りました。ただ残念ながら、初期の避難誘導にも、国民への状況説明にも、関係者の非難計画支援にも十分に役立ったとは伝えられていません。ドイツの気象庁がインターネットで、飛散状況のシミュレーションを公開していたのとは対照的でした。災害対応のロボットもそうでしたが、そのために開発したその肝心なときに役立たないのでは、数十億円はなんだったのかと悲しくなります。
さて、システム・ダイナミクスのツール:Powersim StudioとGISのツールとを組み合わせて、有毒ガスの飛散に関するシミュレーションを実施した事例があります。原発の放射性物質の飛散についても応用できると思いますので、参考までに以下に掲載します。 公開されている適用例は、ガス爆発による有毒ガスの流出シミュレーションです。対象とする地域のGISとStudioが一体となれば、セキュリティの領域だけでなく、農林水産、環境、ビジネス全般とあらゆる領域で有効な活用が可能となり、その成果も大きいだろうと予想されます。 ここをクリックして、ガス爆発の例をPowersim社のWeb上のビデオでご覧下さい。 http://www.powersim.com/main/business_simulation/view_simulation/gas_simulation_video/
ガス・シミュレーションの使用目的としては、次の3つのケースを想定しています。 1.発生した現実的な事象の再現 2.事故が起きる前のリハーサルでの活用 3.事故発生時の避難誘導支援での活用
ガスの噴出はガス特性と天候に基づきシミュレーションされます。シミュレーションのあとで、データはGISシステムへフィードバックされ、そこで地理データに結び付けられます。その結果、危機的な状態に陥った地域では、より良い退出方法を選択して、学校、幼稚園、病院から人々を避難させることになります。
現在の製品は、ノルウェーのNorkart Geoservice社のGIS商品GS/Lineと組み合わせたもので、適用地域がノルウェーだけに限定されています。現在Powersim社は、米国のGISのグローバル企業と、組み合わせに関して交渉中です。この組み合わせが実現すれば、日本を含めてグローバルな対応が可能になります。 http://www.posy.co.jp/news-powersim-f.htm
Acknowledgement 最後に、時間を割いてご指導いただいた石井裕氏に厚くお礼申し上げSD閑話−13を終わります。
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