D閑話-寄稿-6 2012年9月12日 
      溝口 純敏
エッセイ:「 システムを活用した知恵の伝承 」
 

段階の世代より少しだけ早く出生した私の年代は、かろうじて戦前生まれで、戦後の復興の中で、アメリカに追いつけ追い越せの掛け声の下、大いに働き、右肩上がりの高揚感を謳歌してきました。

 

しかし、ジャパン・アズ・ナンバーワンに浮かれていたのも束の間、冷戦終結後の多様化した世界の中で、進むべき道を今も探し続けているように感じています。新しい価値観を求めて模索し続けているのは、国だけではありません。地方自治体、教育機関、企業そして国民、すなはち、国を構成する全てではないでしょうか。この閉塞感を打破するために、できることなら全てをシャッフルし直したい、あるいはガラガラポンしたいと考えておられる方も多いだろうと思います。

そんなことを、会えば大声で話し合う(怒鳴りあう?)大学時代からの親しい友人である溝口純敏氏に、骨太のエッセイを寄稿していただきました。これは是非とも若い方々に読んでいただきたいSD閑話です。

 

知恵は日々新たに蓄積されるわけですが、その前提として蓄積されてきた多方面にわたる多大な知恵を継承することが重要です。継承するための仕組み作りは機関・組織にもできますが、知恵を継承するのは個人です。

溝口氏は長く“もの作り”に関わってきましたので、継承し身に付けた工学分野での問題解決能力に関する知恵を継承する活動を、現在も行っています。その手段は、個々の数値解を求める数値解析法ではなく、数式処理ソフトウェアMaximaで、それを活用して問題解決能力を向上する方法を提案しています。
数学に馴染みのない方は、5章と6章はスキップされても構いません。数式に馴染みのある理・工系や経済系の学生の皆さんは、是非ともフリーのソフトをご自分のPCにインストールして、溝口氏の設けたWebサイトの演習をトレースされてはいかがでしょうか。

 

もう40年以上も昔の話ですが、東京地区が最初の勤務地だった溝口氏と私は別の会社でしたが、休日に集まって制御理論の勉強会を開いていたことを思い出しました。
その内、勉強会を再開したいものです。その時は、制御理論を社会系の問題に適用したシステム・ダイナミックスを使って、エネルギー+防衛+外交+経済・産業+社会保障などを含んだ全体感のあるモデルを、荒っぽくても構わないから作って、日本のビジョンを眺め、喧々諤々とやりたい なあ。ワイン グラスでも傾けながら。

 

溝口純敏氏の略歴

1944年 生まれ

1967年 大阪大学工学部造船学科卒

1969年 大阪大学大学院工学研究科造船学専攻修士課程修了

1969年 石川島播磨重工業 入社 船舶事業本部基本設計部 配属

1975年 同社 技術本部技術研究所 配属

1985年 大阪大学から工学博士号取得

1999年 同社 機械・プラント開発センター 所長

2001年 石川島検査計測 常務取締役

2006年 同社 退職

 

溝口純敏氏とコンタクトしたい方は松本までお知らせ下さい。彼からメールをお送りするように連絡します。                                                  (松本憲洋)


「システムを活用した知恵の伝承」

目次

1. 生活の知恵

2. 日本の発展と知恵との相関

3. もの作りにおける知恵の伝承

4. これまでの知恵を全て伝承できるか?

5. 数式処理ソフトウェア:Maximaとは

6. 数式処理システム:Maximaの活用例

7. 流体力学への思い

8. まとめ

 

1.     生活の知恵 

 多くの日本人にとって、これまで最も大切にしてきた知恵は2500年受け継がれてきた仏の教えではないでしょうか。多くの教えがありますが、犯してはならない戒めは「十重禁戒」として表され、第一不殺生戒(生物を殺さぬ)、第二不偸盗戒(盗むな)、第三不邪婬戒(夫婦の道を正しく)、第四不妄語戒(真実を述べる)、第五不酤酒戒(酒の害、酔った姿の戒め)、第六不説過戒(人の悪口、他人の過失を責めない)、第七不自讃毀佗戒(自慢の戒め)、第八不慳法財戒(施すことを惜しまない)、第九不瞋恚戒(憤ることはしない)、第十不謗三宝戒です(修証義より)。しかし、南伝仏教では、上記の第一から第五までは同じですが、第六不非時食戒(非時期に食べない)、第七不歌舞観聴戒(演芸を鑑賞しない)、第八不塗飾香鬘戒(身体を装飾品などで飾らない)、第九不坐高広大牀戒で、同じ仏教でも伝わった地域によって大切とされる知恵も異なるようです。当然、他宗教では仏教と同じ部分と異なる部分があるでしょう。また、民族が遊牧民族系と農耕民族系でも異なると思います。日本人は農耕民族系で定住、協調を基とした知恵に重きがあるように思います。今日のようにグロウバルな時代で、人の行き来や情報交換が頻繁になり、隣に外国の方々が多く住んでいる状況で、各人の背景により異なる知恵はどのように調整され、変化し、受け継がれていくのでしょうか。

 

2.     日本の発展と知恵との相関

 日本の産業が戦後大きく発展した理由について調べたことがあります。戦後、鉄鋼が復活し、その鉄を使用する造船の建造量が欧州を抜かし世界一になりました。それ以前までは鉄板の接続を鋲で行っていましたが、日本で溶接品質の高い鉄板、溶接棒の開発、更に自動溶接が進み、生産性の大幅な向上が図られ、構造物のつくり方が大きく変わりました。また、ブロック工法(工場で鉄板、配管や足場などを予めブロックとして組立、そのブロックを船台(現場)で組み合わせる)で高所作業の減少、条件のよい環境で溶接が可能になり、造船所のレイアウトも大きく変わり、更なる品質と生産性の向上が図られました。今では多くの構造物の製作に活用されています。この生産革命は欧米では考えられない多くの優秀な大学卒スタッフを生産現場に配置し、現場作業員とともに、多くの改善努力がなされてきたことが大きく寄与しています。この皆で連携して共通の目標に向かうことが自然に行えたのは、日本人の受け継がれてきた知恵の一つではないでしょうか。


 カメラでは、昔は高級なドイツのカメラ、しかし、一眼レフが市場に出た頃から日本の強さが見られ、自動の露出・焦点機能を持ったカメラの出現で日本の強さが際立つようになりました。これらの製品は光学とメカトロニクスの技術の融合商品であり、双方の技術者の一体となった開発で得られたものです。日本では異分野の技術者が一体となって新しい機能の製品に仕上げていった例は他にも多くあります。また、日本人の感性を生かし、使いやすさ、高機能性を求めた家電製品は、物まねの日本製品から優れた日本製品へと評価を高めてきました。


 日本人の知恵が全てよい方に作用してきたわけではありません。古くは、第二次世界大戦の終戦処理で、日本は本土決戦を決め、最後の戦いと鼓舞する一方で、参戦していないロシアの調停で条件降伏を図ろうとしていました。ところが、最近、イギリスの当時の文書から、日本の武官が、間もなくロシアが参戦してくるという情報をつかみ、軍へ報告していたそうです。軍幹部は、全面降伏では過激な軍を押さえられないとして、ロシア参戦の情報を隠し、可能性がないロシアの調停の継続を選択し、全面降伏を先送りとしました。その結果、多くの犠牲者を出すことになったそうです(20128NHK放映)。また、2011年の福島原発事故の国会報告書で、事故の要因として、原子力関係者が外部の意見を取り入れなかったことがあげられ、海外の報道機関の評価でも日本の隠蔽体質が批判されました。これも重要な情報を得ていながら、自己の組織の防衛・利益を重視し、問題点を先送りした結果、多くの犠牲者を出すことになってしまいました。まさに、歴史は繰り返すで残念でなりません。真実を隠し、自己の組織の防衛と利益をまもる事例が他でも多く見られます。皆で連携して組織を守るという日本人の知恵も、よい方にも、悪い方にも作用しています。

 

3.     もの作りにおける知恵の伝承

 もの作りの分野では、東京スカイツリーの構造で、五重塔の心柱の知恵を活用していることは有名で、更に、日本の建築業界の高度な構造解析と高精度の鉄骨工作・組立技術で成し得られました。私ももの作りに関わってきましたが、コンピューター分野の発展により、シミュレーション能力が飛躍的に向上し、設計や現場が大きく変革してきました。しかし、もの作りの知恵の伝承には、いつも悩まされてきました。


 構造解析では、種々の機能を有し、信頼性の高いシステムとなっています。そうなると構造解析の知恵は、どういう構造様式にするかと外力の評価などに移っていくものと考えられます。要求される機能・性能を満足する構造様式を提言するためには、心柱などの先人の知恵や構造力学に関する深い包括的な知識が必要で、これらを使いこなす知恵が要求されます。また、流体力学の分野では、すばらしいソフトウェアが開発されており、実験に近い精度で流場の解析が行えるようになっています。構造解析や流体解析以外にも、機構解析、熱解析、化学反応解析、電子回路解析など多くの分野で、すばらしい数値解析ソフトウェアが開発されています。


 上記の知恵、いわば高い問題解決能力はどのようにして培われていくのでしょうか。

まず、問題の認識が正確に行われることと、類似の問題解決の経験を多く積むことと言われています(G.ポリア著、柿内賢信訳、「いかにして問題をとくか」丸善出版)。では、数値解析の経験を多く積めば、この知恵が得られるのでしょうか。私は否と考えます。数値解析ではある状態の情報は得られますが、包括的な知識は得られません。もの作りでは、あらゆることを想定して、設計製作する必要があります。解析的な手法を学べば、解けている例題は少ないものの、その特徴や傾向をよく理解できます。数値解析が行えなかった時代では、解析的手法を活用し、持っている知識や経験を生かして、この範囲に入っているはずだから問題のない設計との結論を得てきたと思います。すばらしい数値解析結果を見せられると、それに目が移り、全てが解決できたと思いがちですが、もの作り全体の一部が高精度で多くの判断材料が得られたと考えるべきです。数値解析で得られる多くの情報を、解析的手法から得られる包括的な知識で判断し、もの作りに活用していくことが重要だと思います。将来は人工知能などを活用した新しいシステムが開発され、問題解決の一部を担っていくようになるでしょう。

 

4.     これまでの知恵を全て伝承できるか?

 業界が多様化され、仕事も細分化されている中で、望ましい知恵を確実に伝承することが実践されているのだろうか? あるファーストフード業界では、調理方法、接客対応などについて、詳細なマニュアルがあり、それを各店舗で実践し、客からよい評価を得、業績を伸ばしていると聴きます。複雑な装置やプラントでは、各種操作や非常時対応について、マニュアル化され、場合によっては操作シュミレータを使って訓練が行われています。しかし、想定以外の問題については、マニュアルのみでは対処できず、本質を理解した人の知恵が必要です。そして、常に、現状の問題点・改善点・盲点の分析、技術の発展、社会構造の変化などに対応した想定以外の問題を解決していくことで伝承が図られると思います。


 一方、多様化、細分化されている社会の中で、あらゆる知恵を伝承することは不可能であり、効率的に行われるべきでしょう。知識については、インターネットや電子辞書・電子書籍によって知ることができ,、音声認識システムで話したことを文章化したり、翻訳したりすることもできます。今や、これらが可能な携帯情報端末が一般に使われる時代となっています。また、少し専門的ですが、人工知能を使った数式処理ソフトウェアというのがあり、因数分解や方程式を解いたりすることもコンピュータシステムで容易に処理できます。このようなすばらしいシステムが多数存在する時代では、これらを使いこなし(使うことに意義を持たないで)、各人が求めている深い知恵を得る活動に多くの時間を割くことがよいと思います。私は工学系で学んできましたので、数学は問題を解決するための手段と考えています。そこで、数式処理ソフトウェアなどを活用して、多くのよい例題を解き、問題の本質を学び、問題解決能力を高めることで、知恵の伝承ができるのではないかと考え、数式処理ソフトウェアを使った
Maxima を使った微分方程式・物理演習を作成する活動を行っています。

5.
数式処理ソフトウェア:Maximaとは

 数式処理ソフトウェアというのは、因数分解、線形方程式、微分、積分、テイラー級数、ラプラス変換、常微分方程式、行列、ベクトルなどを数値計算するのでなく、数式(テキスト)として解いてくれるソフトウェアです。数式処理ソフトウェアの存在は知っていましたが、数年前にフリーの数式処理ソフトウェア:Maximaがあるのを知りました。それを試用した結果、大変興味深く、有益なシステムであることがわかりました。

 
 
Maxima1960年代後半に開発したMITMacsymaの子孫で公に利用可能なシステムです。Schelter1998年にGNU General Public LicenseGPL)の下でソースコードを公開する許可を得、彼の努力Maximaが生まれました現在、世界中のボランティアで開発・保守が行われ、いユーザーに使われています。


 本ソフトウェアはCommon Lispで書かれており、
WindowsLinuxおよびMacOS Xで使用可能で、下記からダウンロードして使えます。

Maximaホームページ http://maxima.sourceforge.net/

日本のMaxima関連ホームページ http://www.cymric.jp/maxima/top.html

はじめてでもできる Maxima のインストール(Windows XP 編) http://www.cymric.jp/maxima/maxima-winxp.html

 

 Maximaを使用する場合、会話形式のソフトウェア:wxMaxima(Maximaをインストールすると併せてインストールされる)を使用するのがよいと思います。wxMaximaではFortranプログラムの数式入力に近い形で入力し、因数分解しろ、展開しろ、解を求めろ、微分しろなどの指示をすることで数式の処理結果が得られます。また、正確な分数、整数および高精度の数値結果が得られるとともに、2次元および3次元のデータを図形化することできます。更に、数式をFortranソースとして出力できたり、数式がきれいにプリントできる文章作成フリーソフトウェア:LaTexへ数式コマンドをコピーできます。私は数式の入った文書を、このLaTexを使用して作成しているので、MaximaLaTexの組み合わせで非常に効率よく作業を行っています。


 Maximaの使用例として簡単な数式処理を下記に示します。青色の文字は入力を、黒色の文字は出力を示します。また、左に解説を、右に
wxMaximaの出力を示します。


 数式の展開:expand、因数分解:factorについて下記に示します。ここで expand(%) % は上行の式を引き継ぐこと、即ち、expand(%)で「上行を展開しろ」を意味します。

 

 

上記の2行目をLaTexコピーすると \[{\left( b+a\right) }^{5}\] のように出力され、LaTexに、これを貼り付け、数式入力できます。


 方程式、連立方程式の求解:solveについて、下記に示します。solve(%,x)は「上

行の式をxで解け」を意味します。

 

 

solve([X3,X4],[x,y])は「定義されたX3,X4の式についてx,yで解け」を意味します。式入力の左端のX3およびX4Indexで、以降これを指示することで、右で定義した式が参照されます。

 

 

 微分:diffについて下記に示します。diff(,x,n)は「式をxn階微分」を意味します。

 


 積分:integrateについて下記に示します。integrate(,x,a,b)は「式をab間、xで積分」を意味します。integrateの前に「'」が付くと積分表示式のみで、ev(%,integrate)で積分を実行します。

 

 

 極限:limitについて下記に示します。limit(,x,a)は「式でx a としたときの極限」を意味します。

 

 

 級数和:sumについて下記に示します。sum(,n,n1,n2)は「式のnn1からn2までの級数和」を意味します。%,simpsumは「上式の級数和を簡素化(級数和を求める)」を意味します。

 

 

 Taylor展開:taylorについて下記に示します。taylor(,x,n1,n2)は「式をxTaylor展開し、n1n2乗の項を出力しろ」を意味します。

 


 常微分方程式の求解:desolveode2について下記に示します。desolveは連立常微分方程式が解けます。desolveatvalueで初期条件を予め定義し、desolve(,x(t))で解きます。atvalue(x(t),t=a,b)は「t=ax(t)=bの初期値とする」を意味します。

 


 ode2Besselの微分方程式など幅広い二階常微分方程式が解けます。ode2ode2(,y(x),x)と指示し解きます。解の%k1%k2は積分定数です。

 


 常微分方程式については
Maximaを使った微分方程式演習ノート」で詳しく使用法、使用範囲などを示しています。


 以上から、公式を覚えたり、解き方を教科書で調べたり、手計算で煩雑な式を展開することから解放されるのがよく理解していただけると思います。しかし、全てがうまく解けるわけではありません。システムの中に入っていない公式もあります。よく使う公式はユーザーがプログラムを作成したり、公式の結果を入力して使用します。Maximaの使用法に関する資料などは下記です。

横田博史:はじめてのMaxima.工学社2005

竹内薫:はじめての数式処理ソフトCD-ROM 付、(ブル-バックス) (新書) 2007

中川義行:Maxima 入門ノート1.2.1 http://www.eonet.ne.jp/~kyo-ju/maxima.pdf

横田博史:Maxima 簡易マニュアル、http://www.bekkoame.ne.jp/~ponpoko/Math/maxima/maxima.html

葛西真寿Maxima による数式処理


6. 数式処理システム:Maximaの活用例

 以下にMaximaを活用した簡単な例を解説とともに示します。具体的に問題を解いていく過程を見ていただき、数式処理システムの有益性を覧てください。

 

(1)単振子

 右図に示す単振子の強制振動を解析解で求めるとともに、微分方程式を直接、数値計算で求める。質点の質量をM、バネ定数をK、抵抗係数をR、強制力の振幅をF、円周波数をωとします。下記にwxMaximaの結果を示します。青字が入力、黒字が出力結果です。
まず、kill(all)で各種状態などをクリアします。次に、運動方程式を入力します。式入力の左端のEQ1:はIndexです。ここでギリシャ文字の入力はLaTexと同じで、ω→\omegaと入力する。

 

 

関数:ode2で上式を解く。の正負を要求、p,n,zの何れかを入力する。

 

 

assume(条件)で上記の正負条件を入力してode2関数で解き、ANS1Indexを付け

る。assumeを解除する時はforget(条件)を使用する。

 

とき運動が振動しながら収束するので、この結果を使用する。これをrhs(ANS1)で解の右辺を抽出し、展開する。これにANS2Indexを付ける。

 

 

定常状態のsin(ωt),cos(ωt)の振幅の二乗を求める。coeff(,sin(ωt),n)は「sin(ωt)n乗の係数求める」を意味します。

 

 

逆数をとって、整理する。denomは分母、numは分子を抽出する。

 

運動の自由振動円周波数などの置き換えを行う。subst([A=B],)は「式中のABに置き換える」を意味します。

 

 

逆数にし、円周波数の置き換えを行って振幅特性は、

 

 

グラフを描くために、変数名を変更し、振幅特性を得る。

 

 

R1=1,0.5,0.2,0.1として振幅特性の作図をする。結果は前頁図のようになる。

 

 

次に、上記で得られた解析解とRunge-Kutta法による数値解の比較を行う。

ic2(,t=0,x(t)=0,dx/dt=0)ic2内の初期条件でode2で得られた結果:ANS1の積分定数:%k1,%k2を求め、解:ANS11とする。

 

 

M,R,K,F,ωに下記の数を与えて、解析解は下記となる。

 

 

微分方程式を下記のように書き換える。更に、Runge-Kutta法による数値解を行うため、二つの連立一階微分方程式に変更する。

 

一階微分方程式を関数:rkRunge-Kutta法で解く。sol:rk([A],[B],[C],[D])で、A:連立一

階微分方程式の右辺、B:連立一階微分方程式の左辺の積分結果:x,yCx,yの初期値、D:シミュレーション時間など与え、時系列結果のリスト結果をファイル名:solとする。

 

 

得られた図を前頁に示します。解析解の結果と線型微分方程式をRunge-Kutta法で求めた結果は、当然ながら一致している。上記のようにMaximaでも微分方程式を数値解で求めることが出来ます。

 

(2)糸に吊るした二つの振り子

 長さ:3Aの糸を水平に張り、それを3等分した分割点に長さ:L、質量:Mの振り子を吊す。右図のように糸の分割点でY1Y2だけ下方に変位する。糸の分割点の水平変位をx10(t)x20(t)、質点の水平変位をx1(t)x2(t)とする。糸の張力をT、振り子の張力をT1T2重力加速度をGとする。ここで、糸の分岐点の下方、水平変位と質点の水平変位は十分小さいものとする。

下記にwxMaximaの結果を示します。青字が入力、黒字が出力結果を示します。糸の分割点における上下、水平方向の力の釣り合いは、

 

 

 

 

右図に質点の水平運動結果を示す。図からx2(赤線)の振幅が大きく、x1(青線)が止まった状態から、徐々にx1が動き、そしてx2が止まり、x1が大きく動く運動をする。上記の例は少し複雑な例ですが、変位と力の関係をまとめ、方程式を立てる。その連立方程式、連立微分方程式を解いて、振り子の運動を求めるものです。Maximaでは上記のように容易に振り子の運動を得ることが出来、結果を図で確認できます。これらを手計算で行うのはとても大変な作業となるのは想像いただけるでしょう。他の質点の力学や剛体運動の例については、下記を覧てください。

Maximaを使った質点の力学演習ノート」Maximaを使った剛体運動演習ノート」

 

 以上からMaximaは手計算で煩雑な式の展開をしたり、公式集を調べることから解放され、問題を数式で表現し、それを如何に解くかに集中できるのがよく理解していただけたと思います。処理レベルとして、数学を専門的に扱われる方は別として、大学生の基礎問題レベルには十分対応できると思います。しかし、数学の知恵の伝承に逆行し、知恵が身に付かないのでは、との疑問もあります。昔からの多くの人の努力で現在の数学大系が作られたものと思います。少し乱暴ですが、この定理や公式等を全てフォローしている人は少ないと思います。私は数学を、一度、しっかり学び、公式集+αの機能として、数式処理システムを活用すればよいと思います。分野も多様化し、技術の深さも増している現代では、手計算でできる例題は限られ、数式を眺め、こうなるのですね!になりかねない。それなら数式処理システムを活用し、多くの例題を経験した方が問題解決能力育成の面からよいと思います。

 

7.     流体力学への思い

 若い頃、流体関連の仕事をしていて、多くの本を読む機会がありました。この頃は解析的な手法をベースにした流体力学の議論が主で、ある原理を使って問題を解いたり、これを数値計算するなどされていました。解析的手法での大きな特徴は、解ける物体の形状は限られるが、流れの特徴、物体寸法との関係や物体間の関係などが数式として得られるため、それらの関係がおおよそ推測できることです。

例えば、

 二次元平板翼のまわりの流れ図と揚力の式を次頁右上図に示します(L:揚力、α:迎角、ρ:密度、U:流速、a:翼弦長の1/2)。赤線の翼の左前縁で流れが回り込み、右後端で翼上下流がスムースに合流することがよくわかります。図中の揚力を表す式は簡単ですが、比較的よい近似を与えており、物理現象をうまく捕まえたものと言えます。

 

 二つの円柱まわりの流れ図と干渉力を右中図に示します(A:下の円柱の半径、B:上の円柱の半径、R:円柱間距離、ρ:密度、U:流速、Fx:下の円柱の前後干渉力、Fy:下の円柱の上下干渉力)。円柱同士の吸引力は1/R3で急激に小さくなることがわかります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物体の後方(例えば橋脚の後方の流れ)などに生ずる渦列(Karman渦列)の流れ図とその安定性の式を右下図に示します(ab:渦の間隔)。図中の式の時、渦列の相互関係が安定となり、これは、おおよそb/a=0.281の関係となります。即ち、物体後方などで生じた渦列は渦の強さに関係なく、前記の位置関係を保って後方へ流れていくことを示唆しています。

 

 上記のように解析的手法では流れの様子を明らかにするだけでなく、多くの示唆に富んだ情報を与えてくれます。

 

 ところで、「6.数式処理システム:Maximaの活用例 (1)単振子」で示したように、Runge-Kutta法により、線型・非線型微分方程式を直接解くことが出来、幅広い問題を解くことが出来ます。しかし、運動の周期や収束条件など、それが持っている特徴を捕まえることは出来ません。数値流体解析の分野の研究が進み、基礎の非線型微分方程式そのものを数値計算することで、昔解けなかった形状や問題も見事に解けるようになっています。これらの結果を見て私は感動したものです。最近では、すばらしい数値流体解析ソフトが開発され、その完成度が高まるとともに、実験結果そのものを模擬でき、より多くの情報を我々に与えてくれます。しかし、流れの特徴である上記のような二つの円柱干渉度合いや渦列の安定性などについては、数値流体解析では示唆を得ることが出来ません。また、数値流体解析のみを行っていても、実験のみを多く経験しているようなもので、流れの特徴や問題点を把握するには相当の経験を積む必要があるでしょう。私は解析的手法を通して流場の理解を深め、数値流体解析ソフトを使って流場を評価することで、効率的に問題解決能力を高めることができると思います

 

 以上の視点から、流体力学をこれから学ぶ人たちに解析的手法の例題を効率よく、

より多く経験していただくために「Maxima を使った流体力学基礎演習」をまとめていま

す。ここでは、まだ、前編のみですが、タンク水の流出、遠心ポンプの原理、管路、開水路、円柱・球・楕円まわりの流れ、渦の動き、翼などの簡単な解説と例題(75)Maximaを使って解いています。

 

8.まとめ

 知恵の伝承について、とりとめのない話となってしまいました。最近では、日本人の会社への忠誠心は、世界で真ん中近辺で、高くないそうです。日本人の知恵の伝承がうまく行われているのでしょうか。また、インターネットの普及でグローバルな世界となり、企業活動のみならず個人のレベルでグローバルな競争にさらされています。かなり前、米国で中間ホワイトカラーの給料が下がり、共稼ぎをしないと昔の生活が保てないとの話を聞きました。これからは、しっかりした資格と共稼ぎが前提の社会になるのではないかと思っていました。今、この波が日本を襲い、不安定で、低所得の若者が多くなっています。約40年近く働いてきて、皆努力したと思うが、安定感・夢のない日本になっているようで、我々どこが間違っていたのかと、思いを巡らしていました。
 

 こんなとき、あるお寺で長崎の道士の講話をお聞きする機会がありました。そして真の仏陀による仏になる教えとはをお聞きしました。その中で、強く印象に残ったことは、「実践しなさい。どんなことでもいい。自分の身の丈に合った布施(財、物に限らず温かい心・眼差し・言葉などを施す)を実践しなさい」。また、即身是仏の意味として、「生きとし生けるものは仏になれるの意味でなく、苦がなく生きられる心になる成仏の状態になるよう、継続して修行しなさい。修行を止めたとたん仏でなくなるの意味である」と日々の努力をいわれました。「問題だと思っているなら、布施を継続して実践しなさい!」と、喝を入れられたような気がしました。そこで次のようなことを実践したいと考えています。

 

 個人レベルでグローバルな競争にさらされている今日、単純作業は低労賃の国で行われ、高労賃の日本では付加価値の高い仕事が要求されると思います。そこで企画力や問題解決能力などの知の力を身につけることが大切ではないかと考えます。私は流体力学を学んできましたので、基礎的な部分で若い人の問題解決能力強化に協力できたらと、Maxima を使った微分方程式・物理演習や「Maxima を使った流体力学基礎演習」のホームページを作成しています。
 

 国際競争に勝つためには、社員賃金を抑え、非正規で低所得労働者を増やす一方で、業績がいいから内部留保を増やす。また、約千兆円の国債を発行しても、社会の効率化、産業構造の変化が起きていない。消費活動が少ないから税収も少なく、更に国債を発行しないといけない。などなど矛盾が多く、逆スパイラルに入り、多くの問題から抜け出せない日本のように思います。個人レベルではがんばってきたつもりなのに、なぜ、全体として豊かさ感がないのでしょう。戦後から高度成長で、何をやってもほどほどうまくいく時代があり、物質的に豊かな社会になりました。高度成長のころ、ほどほど、もめ事もなく、強く主張しない、家庭や学校では子供をしからないなどの風潮がありました。日本人は安保闘争以降、長い間、主張しない国民になっています。将来社会の問題点・改善策の明快な提示がないまま、我々自身も、まあいいか、荒立てても変わらない、大きな問題は避けて通りたいと先送りをしてきたのではないでしょうか? これは仏の教えや日本人の知恵の「協調、憤ることはしない」に偏りすぎ、「真実を述べる、施すことを惜しまない」を疎かにしてきたからではないでしょうか。大きな決断時に先送りをして大きな犠牲を出した過去を再び起こしてはいけません。我々に求められるのは「真実の情報」と「自己の身の丈に合った布施を継続して行うこと」ではないでしょうか。私として、これらにどう活動するかは残念ながら模索中です。

 

SDへの期待

 システムダイナミックのソフトウェアについては、松本さんから話を聞いて、どのようなものか大凡理解しています。本ホームページに載っているシステムを使った例を覧させていただくと、経営方針や開発方針を企画する上で、不可欠なシステムではないかと思います。本年、原子力発電所が停止する中で、関西の電力不足が深刻なものになるとして、大飯原発を再稼働させました。しかし、この電力不足の情報、原子炉の安全性評価で、どうも結論ありきの情報を発信しているのではないかとの疑問があります。残念なことに、政府の情報に信憑性がないなら、皆で情報を集め、評価・予測する必要があるが、これは私を含め一般の人の能力を大きく超えています。

 情報を分析し、予測を得意とし、高い能力をお持ちのシステムダイナミックの皆様方に、是非、信憑性のある日本の現状、将来を種々の分野で分析・予測していただけないでしょうか。可能性の幅のあるものでよいと思います。是非、お願いいたします。既に分析・予測結果をお持ちの方は是非お教えください。

 

 活力のある日本となるよう、日本人のよい知恵をもっと再認識しましょう。そして、身の丈に合った布施を積極的に行いましょう。新たな活動については、霧中の私です。皆様方のご指導を得て、今後も探し求め、修行を積んでいくつもりです。

SD閑話-寄稿- 了