ビジネス・プロセス研究の意義
          

JSD研究発表会(2003年3月19日)において発表

発表者 :森田 道也   (学習院大学経済学部 教授)

この論文は、こちらからダウンロードできます。


経営を研究するというときに,我々はともすれば企業を研究するということと同義語として考える.
これは研究対象をより複雑にし,研究の焦点を失って袋小路に入る危険性をともなう.
典型的にはいわゆる組織論でかつて注目を浴びたゴミ箱モデルのような形になって現在のような不況時に企業を救う経営学知識とは縁遠い存在になる.
Mintzberg他の戦略サファリという本もその気がある.
意思決定をするトップの裁量性が非常に大きくなり,戦略もそのトップの恣意性に委ねられると,さまざまなタイプの戦略策定様式が出てくる.
彼等はそれら様式を動物の特性になぞらえて特定の動物に当てはめ,その書著にサファリ・ツアーという名称をつけている.

システム論の世界では,社会(人間)システムは機械と異なって,オープン・システムとして特性づけられている.
それは外部との交互作用があるということが主たる特性である.
そのような社会システムの特性の中に,等終性(Equi-finality)という特性があって,同じ目標に行き着くにあたっては,辿るプロセスが異なっても可能であるとされている.
それが恣意性とか裁量性の余地になる.
しかしながら,理論的には目標に到達することは言えても,途中で景気の急激な悪化で倒産してしまい,目標達成が駄目になる可能性については否定できない.
あくまで観念の域を出ない概念である.

裁量性という言葉はもちろんすべて否定できないし,魅力的ではある.しかしながら,現在の不況時に倒産したりする,あるいは窮地に追い込まれる企業の多くがこの裁量性を履き違えた結果で起こっている.
そのときの経営環境が一見許容したように見える裁量性でも,異なる経営環境では許されないということもある.
それにも拘わらず,それが理解できていなかったために不適切な経営をしてしまった結果である.
研究すべき問題は,何が許された裁量性で,何が誰でも満たさなければならないこと,あるいはそれを満たすために努力しなければならないことであるかを明確に示すことである.
常に危機意識を持つことという言い方をされるが,それは一番苦しい状況を想定して事に当たれということと等しい.
やるべきことが明確には分からなくても,少なくともお客や市場の表面的なニーズにとどまることなく,彼等が本当に支援してくれることが何かを真摯に追求する経営姿勢は問題が他社に比較して少ない.

ビジネス・プロセスを研究対象にすることの意味は,経営が本来しなければならないことを明らかにすることである.
現在,多くの経営者が何をすればよいのかがわからなくなっているという.
他方で,やるべきことは分かっていても,どのようにすべきかがわからないのと,やるべきことも分からないのとは大きい違いがある.
そのような状況ではもう一度,ビジネスの意義とその遂行のためのビジネス・プロセスを再検討する意義は大きい.

質問・問合せ先 :森田道也(michiya.morita@gakushuin.ac.jp)まで